八洲庵二十四節気・教室の彩たち

八洲庵の茶菓子や茶花、季節の庭の風景をお楽しみ下さい。


◆12月22日 冬至


「冬至」は昼間の時間が最も短い。立冬と立春の真中。
旅に病んで夢は枯野をかけめぐる (松尾芭蕉)
芭蕉は折々の句がすべて辞世だと答えたという。日々の生活の中に、一座建立の心を思い、来る年を迎えたいものです。


◆12月7日 大雪 


「大雪」は雪が降り積もる。
おのが灰おのれ被りて消えてゆく木炭の火にたぐへて思う (太田水穂)
炉の炭手前の景色。静かに消えてゆく炭の命にたぐえて、己が生涯、そして一期一会の出会いを思う。


◆11月22日 小雪 


「小雪」は雨が雪になって降る。
人の親の心は闇にあらねども子を思う道にまどひぬるかな (藤原兼輔)
紫式部の曾祖父で「源氏物語」にも引用されている。親の心は夜の闇と違うのに、子のことを思う道は真っ暗闇、途方に暮れるばかりだ。時は移っても共感を覚える歌ですね。


◆11月7日 立冬


「立冬」は冬が始まる。
「 かにかくに 祇園はこひし寝(ぬ)るときも 枕のしたを水のながるる 」(吉井勇)
この歌は、祇園の思いを詠んだもので石川啄木らと編集を担当した「スバル」にて他の祇園を詠んだ歌とともに発表されました。毎年十一月八日には 「かにかくに祭」が祇園甲部お茶屋組合によっておこなわれています。


◆10月23日 霜降 

 

霜が降りるほどに寒くなる。
霜は軍営に満ちて 秋気清し 数行の過雁 月 三更(上杉謙信)
名将上杉謙信が七尾城攻略時に詠じた七言絶句の起承二句。三更は真夜中。武人の澄んだ心ばえがみえる。


◆10月8日 寒露 

露が寒さで凍ろうとする。
我が背子を 大和へ遣ると さ夜深けて 暁露に 我が立ち濡れし(大伯皇女)
大津皇子は政敵の罠に落ち死刑になる直前に、伊勢の斎宮に仕えた姉を密かに訪ねた。弟を見送る姉の情感が沁みる。


9月23日 秋分 

春分から半年目。昼と夜の時間が同じ。
君が瞳はつぶらにて 君が心は知りがたし
君をはなれて唯ひとり 月夜の海に石を投ぐ(佐藤春夫)
あてどない少年の恋心がさやかにうたわれてます。


9月8日 白露

秋の気配が深まり、露の量も多くなる。蜩の声がゆかしい。
かなかなの鈴ふる雨となりにけり(久保田万太郎)
空をあゆむ朗々と月ひとり(荻原井泉水) 


8月23日 処暑

「処暑」は暑さが終わる。
身にしむや ほろりとさめし 庭の風(室生犀星)
ふと眠りから覚めて庭に目を放つと、秋風の「あわれ」と人の世の「あわれ」が合体し、自然に寂寥感が湧いてくる、そんな気分を詠んだ一首。


8月7日 立秋

「立秋」は秋が始まる。
馬追虫(うまおひ)の髭のそよろに来る秋は 眼を閉じて想ひ見るべし(長塚節)
スイッチョのあの長いひげがそよろと動く、そのかそけさをもってやってくる「秋」を繊細に詠う。
萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また 藤袴 朝顔の花(山上憶良)
秋の七草、万葉の時代から今日の庭先まで、幾多の人が探した事か。


7月23日 大暑


「大暑」は暑さが最高になる。
「青竹に 空ゆすらるる 大暑かな」(飴山 實)
蒸し暑い季節の中でも、爽やかさを感じさせる一句です。


7月7日 小暑

 
「小暑」は梅雨が明ける。
「天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ」(柿本人麻呂)
七夕を迎え、夕空に物語を思う頃。


6月22日 夏至

「夏至」は昼間の時間が一番長くなる。
「紫陽花や 白よりいでし 浅みどり」(渡辺水巴)
咲初めは白、次第に緑、青、紫、桃色と変色の妙を見せることから七変化の名も。


6月6日 芒種

 

  

「芒種」は雑穀の種まきをする時期、田植えの時期に入り、梅雨めいてくる。
「薄月夜 花くちなしの 匂いけり」(正岡子規)
花の姿ではなく、匂いに季節を感じたところに、情感があふれています。


5月21日 小満

  

「小満」は植物が育ち茂る。「麦生日」と呼ばれ晴天であれば麦がよく熟するといわれてます。

「しんしんと 肺碧(あお)きまで 海の旅」(篠原鳳作)

鮮やかな色彩感が、身体の隅々にまで染み渡る爽快感。この季節ならでは。

「藤の花 今をさかりと 咲つれど 船いそがれて 見返りもせず(坂本竜馬)

季節を感じながらも、心はやる革命児の気概が感じられます。


5月6日 立夏

   

「立夏」は夏の始まり。東洋暦では立夏から立秋の前日までを夏、西洋暦では夏至から秋分の前日まで。

「二滴一滴 そして一滴 新茶かな」(鷹羽狩行)

新茶を入れる時、最後の一滴まで珍重する。この一瞬に心の高揚を感じる。

「さみどりの 斜面かぐはし 一番茶 摘みゆく人に 立夏のひかり」(喜夛隆子)

昨年5月小山園の茶摘・工場見学に参加しましたが大変勉強になりました。抹茶ソフトクリームは絶品でした。


4月20日 穀雨

  

「穀雨」は、穀物を育てる雨が降り、芽を出させるという意味。「百穀春雨に潤う」

「にはとこの 新芽ほどけぬその中に その中の芽の たたまりてゐる」(木下利玄)
白樺派の歌人。鋭い観察を通し、この季の変化を感動的に歌い上げている。

「からころも(唐衣) きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞ思う(在原業平)
三河の八橋で川べりに咲くカキツバタを、その五文字を各句の頭に据えて詠んだ折句。
京都山科の勧修寺の、優雅な氷室池のほとりに咲く花しょうぶやかきつばた、水面を覆う赤や白の睡蓮も思い起こさせる。

桜は京都御所の桜で、先に天皇皇后両陛下がご覧になられたものです


4月5日 清明
  

「清明」は清浄明潔の略といわれ、南東風が吹く春のよい季節。草木の芽がでる。「草木清明風光明媚」 先頃の新元号「令話」の発表も、大変相応しい時期を得たものと思います。

「ねがはくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月のころ」(西行)

柔らかな春の日差しの中を、桜の花びらが散っていく。とても日本的で美しい情景が目に浮かぶ。非常に視覚的で華やかな歌でありながら、同時に散り行く桜の哀愁も感じられる。西行は河内の弘川寺で、願い叶い旧暦二月十六日に没した。

「なつかしき 雫となりて 帰りませ まことのふるさと 言の葉の海」(大岡亜紀)

今年の清明は4月5日。2017年に亡くなった詩人の大岡信の命日と重なる。娘の亜紀さんが霊前に捧げた一首。新聞のコラムにこの歌を見つけた時、感性豊かな娘さんに後を托せた大岡信は幸せだなと黙祷を捧げた。花の下に悼む。

お菓子:春の野(ばってんや)


3月21日 春分

  

「春分」はこの日を境に昼の時が夜より長くなる、春真っ只中。

かたまって 薄き光の 菫かな(渡辺水巴)

すみれの句と言えば、芭蕉の「山路来て なにやらゆかし すみれ草」が有名だが水巴の写生句は春の気分を引き出してくれる。
日が長くなる、散歩が楽しくなる季。
また桜便りや、新学期に思いを馳せる、何かと心穏やかになれぬ季でもある。

「少年や 六十年後の 春の如し」(永田耕衣)

春につられ、時間と生命についての夢想に誘う句であるが、還暦を迎え今年、心惹かれる句である。
茶の湯では、3月27日に大徳寺では利休忌を迎え、法要と茶会で賑わう。

お菓子:うぐいす餅(ばってんや)


3月6日 啓蟄

「啓蟄」は冬ごもり中の虫が目を覚まし姿をあらわす季。

「くさかげの なもなきはなに なをいひし はじめのひとの こころをぞおもふ」(伊東静雄)
大岡信氏はこの句の説明に「この歌は伊東氏が透谷賞を受賞した時に、祝いを寄せた友人への返礼の手紙に認められた。
自分の詩集を「草かげの名ものなき花」に擬し、最初に祝いの言葉をかけてくれた、つまり「名」を呼んでくれた人への感謝を下の句で告げている訳だが、そんな事情を離れて読んだ方が却って味わいの深い歌として読める。」と書いておられる。
春の野の花を見ると、心に浮かぶ歌である。

お菓子:都の春(ばってんや)


2月19日 雨水

  

 「雨水」は雪が雨に変わり、氷が融けて水になる。

「氷雪融け雨水温む」「私の耳は貝のから 海の響きをなつかしむ」(堀口大学訳、コクトー作)
卒業を前に動物園、そして三崎海岸に遊んだ。
早春の海は冷たくも、透明の中に春の命を宿していた、「あどけなき 足跡見しや アメフラシ」
下宿に戻った夜、「おもひでに 折鶴おりし 今宵かな」と日記に記す。
若き日の遠い思い出である。

(お菓子:栗饅頭 ばってんや)


2月4日 立春

 

「立春」は春の始まり。「春の気始めて立つ」

「ひさかたの 天香山 この夕べ 霞たなびく 春たつらしも」(柿本人麻呂)
「照りもせず 曇りもはてぬ 春の夜の 朧月夜に しくものぞなき」(大江千里)
冬が終わり、大地に生命の息吹にあふれ、大気にも精気がみなぎる、春の始りの日。
街で、駅で見かける受験生の後ろ姿に、「頑張れよ!」と思いを飛ばす時でもある。

(お菓子:下萌え ばってんや)


大寒 1月20日

    

「大寒」は寒さが最も厳しくなる。

「珍しき 春にいつしか 打ち解けて まづ物いうは 雪の下水」(源頼政)
平清盛の横暴は、宮中の鵺退治で有名な源頼政を苦しめた。やがて高倉宮以仁王の令旨を奉じ平家打倒の義兵を挙げた。心中の思いが歌からも伺える。文武両道に優れた「頼政」は、世阿弥が能にも謡あげた。時期尚早の挙兵に敗れた頼政は息子と共芝に扇を敷いて自害する。今は宇治平等院の境内の中、慰霊碑が立つ「扇之芝」に眠る。「雪の下水」は、大寒にこそ相応しい歌であり、闘志を秘めた男性的な響きが胸を打つ。

(お菓子:梅 ばってんや)


小寒 1月6日

    

「小寒」は寒の入り。寒さがましてくる。

「通りますと 岩戸の関の こなたより 春へふみ出す けさの日の足」(智恵内子)
作者は天明狂歌の女流歌人。「通ります」は当時関所を通る通行人が言った決まり文句。天の岩戸の神話をふまえ、新年の足(月日の歩み)が、年の変わり目の関所を新春へ一歩踏み出す図である。

「瑞気とはこれ初釜を昇る湯気」 (山口誓子)
八洲庵の茶の友も6日に開催された「初釜」で和気あいあい集い、ばってんやお手製のはなびら餅で祝い、お稽古への気持ちを新たにした次第。

(お菓子:はなびら餅 ばってんや)